FinTechとイノベーション

  金融業界を取り巻くFinTechに関する様々な情報と事実を整理し、国内外の最先端動向をキャッチアップする講座「FinTechとイノベーション」(2016年秋学期)に登壇いただいたゲストスピーカーのお話しのエッセンスをお届けします。

 

 ※順次掲載します

 

「FinTechとインベーション」の開講にあたり

 
 
一橋大学大学院国際企業戦略研究科 金融戦略・経営財務コース 
准教授 野間幹晴

 

 2016年秋学期、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)金融戦略・経営財務コースでは、寄附講義「FinTechとイノベーション」を開設した。日本の大学で “FinTech”という単語が入った講義は、おそらく本講義が初である。

 本講義を設置したのには、2つの目的があった。

 1つは、金融産業の競争力の強化である。FinTechによって、既存の金融機関や金融システムは大きな変革を迫られる。大手金融機関が競争力を維持し続けるため、スタートアップが世界の金融ビジネスを席巻するため、そして日本の金融行政が世界に伍するために、何が必要で、どのような変革が求められているのかを深く考えたい。

 FinTechはビッグデータ、AI(人工知能)、ブロックチェーン、APIなどの技術革新とともに、日進月歩で進化している。こうした進化を踏まえた議論を行うために、大手金融機関、スタートアップ、日米のベンチャーキャピタリスト、金融庁など、さまざまな実務家の視点から議論を行いたい。これを実現するために、各分野の最前線で活躍する実務家の方々にゲストスピーカーとして登壇していただくこととした。こうした現象を追いかけると同時に、理論的に考えたい。金融分野は実務と理論が交錯する分野であり、実務と理論を重ね合わせた講義にすることで、金融産業の競争力強化に貢献したいと考えた。

 いま1つは、イノベーションに対する大学の役割を向上したいという大学人としての目的である。イノベーションのパターンに日米で相違があることを所与としても、彼我の差は歴然としており、日本の大学もイノベーションに積極的に貢献しても良いのではないかという忸怩たる思いがあった。一橋大学ICSは金融機関の集積する丸の内・大手町に近く、FinTechについて研究・教育を実践するうえで地の利がある。

 こうした目的を達成するために、大手金融機関、スタートアップ、ベンチャーキャピタリスト、規制当局などとのコラボレーションにより本講義を設置した。また本講義は「寄附講義」であり、多くの企業から寄付していただくと同時に、議論の対象を広げ、また深めるために聴講生を派遣していただいた。FinTechに対して積極果敢に取り組むと同時に、設置趣旨に賛同してくださった企業ばかりである。物心両面でのサポートなくして、本講義は成立しえなかった。記して深く感謝したい。

 

「人工知能と資産運用 」

 2016年11月30日のゲストスピーカーは、シンプレクス・アセット・マネジメント株式会社の運用本部ディレクターの野村至紀氏に登壇いただきました。

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1 FinTechをどうとらえるのか

 資産運用におけるFinTech業界では、GoogleのAPI無償公開や、プログラミングの情報共有サービスQiitaによってAIによる投資運用への参入障壁が低下しています。野村氏は、「今後はスマートフォンでもデータマイニング的なテクニカル分析を行う時代が来る」と主張しました。

2 FinTechに対して企業としてどのように取り組んでいるのか

人類が進化の過程で獲得したパターン認知は科学的な根拠がなく、自分の都合の良いように解釈してしまうバイアスが存在します。野村氏は、「テクニカル分析もこのパターン認知によって行われており、データ分析者にとって都合の良い解釈がされているのではないか」と疑問を呈しました。

世界的にデータマイニングによるテクニカル分析が流行していますが、データマイニングによるテクニカル分析における数々の問題点を野村氏は指摘しました。一点目は、テクニカル分析におけるパターン認知の存在です。二点目は、AIを利用したディープラーニング(深層学習)によるデータ分析は、AIの学習内容がブラックボックス化するため、どのような分析を行っているのかが不透明であることです。

テクニカル分析におけるパターン認知の存在やAIによる分析手法のブラックボックス化を克服するためには、「より少ない分析手法によって客観性と科学的根拠に基づく機械学習によるデータ分析を行うことがカギとなる」と野村氏は考え、そのアイディアのもとでAIによる資産運用を開発されました。

3 FinTechの今後の展望

 従来のビジネスでは意思決定を行う際には十分な情報収集と説明責任が必要ですが、「機械学習の世界では、多すぎる情報収集はパフォーマンスの向上には寄与せず、逆に乱雑さ(ノイズ)をシステムに加えることでパフォーマンスが向上することがある。こうした事実は従来のビジネスの常識が求める説明責任の概念に変革を求めている。」と野村氏は考えています。なぜならば「人間社会のべき論」は認知バイアスの悪影響を強く受けたものであり、科学的には正しいという根拠がないとのこと。機械学習の常識は、われわれに馴染みのある組織や常識の在り方と軋轢を生む可能性がありますが、「われわれにとって不都合な真実を受け入れなければ、他社や他国に先を越されてしまうだろう」と野村氏は強い危機感を持っており、新技術の導入によって他社や他国に先駆けることの必要性を説きます。

また、実際にフォワードテストを組み込んだAIによるTOPIX先物取引の実演をしていただき、公演後には受講生と活発な議論を行いました。

 

「FinTechと金融メディア」 ~FinTechは金融業界を破壊するのは本当か?~

 2016年12月7日ののゲストスピーカーは、株式会社ZUUの代表取締役兼CEOの冨田和成氏が登壇し、「FinTechと金融メディア ~FinTechは金融業界を破壊するのは本当か?~」というテーマでご講演いただきました。

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1 FinTechをどうとらえるのか

 資本主義社会や資本調達の加速によって、国家から企業、企業から個人へと世界を動かす主体のパラダイムシフトが起きています。いまは個人がヒトやモノやカネにアクセスして、各々の夢などの実現のために自らを経営していくことが可能になり、個人によるカネの調達や運用など活用法は注目されています。
冨田氏は、「FinTechは金融業界を破壊するのではなく、金融業界をアンバンドリングし、アンバンドリングされた金融サービスとして各産業界に関わってくるものである。FinTechによって、金融のコモディティ化が起きている」と主張します。

2 FinTechに対して企業としてどのように取り組んでいるのか

 既存の金融業界は、本社がオペレーション業務を、支店が顧客とのディストリビューション業務を行っているような二階層構造になっています。今後は、FinTech企業が金融業のディストリビューション業務を担い、既存の金融機関がオペレーション業務を行うと冨田氏は考えます。
冨田氏は、「Fintechによって金融市場が壊れるのではなく、市場がさらに大きくなる」と予想します。
金融市場が大きくなっていく状況で、株式会社ZUUはBtoBとBtoCの両方へサービス提供し、特にBtoCでは、顧客の金融に対するリテラシーが定着するようなサービスを提供しています。株式会社ZUUは、顧客がリテラシーを持つことで、顧客と金融商品の間にある情報の非対称性がなくなり、お金に対して前向きに考えられる世界の実現を目指しています。

3 FinTechの今後の展望

 消費財分野でのe-commerceは消費者の購買意欲を購買履歴によって予測し、商品提案を行っています。冨田氏はFinTechの今後の展望に対して、「消費財よりも高価で情報の非対称性が大きい金融商品にでは、購買履歴でなく、商品や情報収集の中での購読履歴が重要になってくる」と主張されました。
 また、アメリカのFInTech業界の事業別ごとの事例や、日本の金融業界がFInTechとコラボレーションをしている事例などを解説していただきました。

 

「FinTechをめぐるレギュレーション」

 2016年12月21日の講義は、森・濱田松本法律事務所のパートナーである増島雅和弁護士が「FinTechをめぐるレギュレーション」という演題でご講演されました。

1 FinTechのとらえかたとイノベーション戦略

増島氏はFinTechについて、「FinTechという金融論的な理論や事業モデルが存在するのではなく、イノベーション実現サイクルに金融ビジネスを乗せるためにイノベーションセクターによって作られた投資マーケティングのコンセプトである」と説明します。

「既存の事業者が作り出した法律や慣習を含めた市場秩序に対して、既存の業界の構造を変える可能性のある新しい技術を裏付けに、投資コンセプトをマーケティングし、その投資ストーリーに賛同するVCや、新たな競争環境によってディスラプトされかねない既存の事業者によるFoMO(Fear of Missing Out)をレバレッジして資金を集め、それらの資金の集中投入によって結果的にその投資ストーリーが実現してしまう」というシリコンバレー流のイノベーションの方程式が、金融ビジネスにおいて展開されているのが現状です。「FinTech」というのは、こうした動きを駆動するための核となる投資コンセプトである、と増島氏は考えています。
増島氏はFinTechを含むイノベーションを実践するためにスタートアップ企業が採用する戦略を3つ挙げます。1つ目は、破壊的な技術を背景にスタートアップが既存事業者に対して、互いにwin-winの関係になることを持ちかける「オープン・イノベーション」戦略です。2つ目は、大口顧客に過剰適合したサービスを提供している既存事業者に対し、スタートアップ企業がテクノロジーによって価格を抑えたプロダクトを手に、大口顧客が注視していない多数の潜在顧客に対してサービスを提供するという「民主化アプローチ」です。3つ目は、官庁などのヒエラルキー型の組織を巻き込むために、組織そのものではなく、組織に関わる人にフォーカスしてイノベーションを伝播させていく「ネットワーク効果」です。これらの戦略の組み合わせによってスタートアップ企業は金融ビジネスの競争の場をずらし、そこに自らの市場を創出しようとします。

2 FinTechとレギュレーション

FinTechが他のイノベーションと大きく異なる点として、増島氏は重層的な金融規制の存在を指摘します。その構造を理解しないとFinTechでは見当違いなアジェンダ・セッティングをしてしまいかねず、これでは個々の企業のイノベーション戦略も成功せず、国家としてもイノベーションの対応を誤ってしまうという意味で、FinTechに携わる人たちにとってまずもって共通理解にしておかなければならない事項であるとされます。
FinTechを取り巻く金融規制について、増島氏は3つのレイヤーに分けて理解するべきと説きます。1つめは、利用者保護の観点から課される業者法としての金融規制で、これは他の分野の業者法と同様、国内の個々の消費者を保護する観点から運営されています。2つめは、ネットワークによって成り立つ「金融」というシステムを維持するためには、個々の業者がそれぞれ期待された役割を確実に果たすということについての信頼(トラスト)を確保しなければならず、この信頼を維持するために必要な規制です。3つめは、金融というネットワークが国境を超えて接続していることに起因して、この接続性(interoperability)を確保するために必要な規制のハーモニゼーションを図る国際金融規制です。1つめについては国内法的な観点、業界的な観点から議論することができますが、2つめについては産業のインフラとしての国内金融ネットワークの維持・向上という観点が欠かせず、これは国家の産業戦略にも目配りしたアジェンダの設定と議論が必要です。さらに3つめは、より国家主義的に、金融において優位に立つ国が国家間競争において優位に立つという考え方から繰り広げられる国際政治という観点で、国家間のパワーゲームが金融規制の枠組みづくりに大きな影響を及ぼすことを踏まえた戦略観が重要です。
国内金融法制を新たな市場に適合させ、さらには国家間競争に勝てる金融インフラを作り、これを国際的に伝播させていくため、日本の金融規制の基本的なアーキテクチャを深く理解しなければならないと増島氏は説きます。現行の金融規制のアーキテクチャは、特定のビジネスモデル(業)の実践を一般的に禁止した上で、政府が許可した者のみが例外的にこれを行うことができるという許認可制のフレームワークに準拠しています。このフレームワークのもとでは、「誰が行うか」ということはもとより、「どのようなビジネスモデルを展開するか」ということについても政府の管理下に置かれ、資格取得の過程において、政府からそのビジネスモデルの審査を受けなければなりません。イノベーションが様々なビジネスモデル仮説の試行錯誤を通じた実証過程からしか生まれないとするのであれば、このビジネスモデルの事前審査という許認可アーキテクチャは、審査官がイノベーションの推進に強力に動機づけられていない限りは、アンチイノベーション的に作用します。
こうした問題はなにも日本に特有の問題ではなく、官僚組織というものが持つ構造の問題であると増島氏は指摘します。そして、構造の問題であるがゆえに、この問題は構造的に解決することができるはずであると喝破します。このような発想のもとで現在、英国を始めとするいくつかの国で試みられているフレームワークとして、「レギュラトリー・サンドボックス」を説明されました。

サンドボックスというのは、技術の世界でいきなり本番環境において他のシステムとの相互作用を起こさせるのではなく、擬似的な環境を用意してその中で試行錯誤により技術の可能性を検証するというコンセプトですが、これはスタートアップ企業によるディスラプティブイノベーションに対し大企業がレジリエンシーを高めるための戦略として定着しつつある考え方です。レギュラトリー・サンドボックスは、ディスラプティブイノベーションという脅威に対応する大企業の戦略を、規制のディスラプションという脅威に対応する政府の戦略として読み替え、応用したものです。
そのうえで、増島氏は、日本の金融行政をあずかる金融庁の現体制は、レギュラトリー・サンドボックスという考え方に否定的な見解を持っていると指摘します。ただし、増島氏は、このことはより良い政策を模索することを放棄すべきであるということではないことを強調します。政府セクターの限界は、我々民間セクターが政府セクターとコラボレーションすることで補うことができます。政府セクターの限界を嘆き批判することに終止するのではなく、我々民間セクターは、現状をより良い状態に持っていくために、我々ができる政府セクターとの具体的なコラボレーションを進めていく必要があります。 

3 FinTechの今後の展望

世界に目を向けると、FinTechは先進国セクターと新興国セクターでそれぞれ同時多発的に進捗しています。先進国において開発された最新のビジネスモデルに追いつくよう、新興国が先進国の発展モデルを後ろから追いかける、というモデルはそこにはないこと、また先進国による技術による恩恵の新興国に対する均霑(きんてん:等しく潤うこと)という世界とは少し異なることに注意が必要であると増島氏は指摘します。金融という産業は、先進国が自らのパワーを維持するという思惑を持って、複雑なルールを張り巡らせていますが、こうした極めてハイコンテクストなルール形成は、より原初的な金融ニーズに支えられた新興国には説得力を持ちません。ファイナンシャル・インクルージョンや金融の民主化という、金融が他方で持つ重要なアジェンダのもとに、先進国が掲げる金融秩序に挑戦する動きが今後、FinTechというテーマのもとで現れてくるのではないか、と増島氏は予想しています。こうした動きは、マクロ的に見ると、スタートアップ企業が既存事業者に挑戦するディスラプティブイノベーションの構図のまさに相似形であると増島氏は指摘します。
2016年のFinTech投資の世界ナンバーワンは、米国を抜いて中国となったという調査結果が公表されています。アジアインフラ銀行をめぐる中国の動きや、Brexitを果たした英国の中国への接近など、新興国による覇者への挑戦は、イノベーションの基本戦略である「オープン・イノベーション」「民主化アプローチ」「ネットワーク効果」を国家レベルで駆使した新たな局面に入ったと増島氏は説きます。
増島氏は、そうしたなかで我々日本の民間セクターができることは、企業活動を監督しつつも支援する官庁とのコラボレ-ション、大企業とスタートアップ企業のオープン・イノベーションの促進、同じ価値観を持つ海外の組織や人材との連携の3つにフォーカスし、日本が金融で世界に後れを取り、産業の地盤沈下を起こさないようにすることが重要である、と強調して講演を結ばれました。

 

「大企業とスタートアップのコラボレーション」

2016年1月11日のゲストスピーカーは、マネックスグループ株式会社の執行役員・新事業企画室長の高岡美緒氏にご登壇いただきました。

 

  1. FinTechをどうとらえるか

FinTechは第4次産業革命という大きな流れの現象のひとつであると言われます。高岡氏は「産業革命とは、人々の生活や仕事の仕方が大きく変革する分岐点のことを指し、その結果さまざまな産業が破壊される」と指摘します。例えば、インターネット証券の登場をFinTech1.0と位置付けると、このFinTech1.0により、顧客と接点を持つ営業マンや店舗の必要性が無くなりました。

高岡氏によれば、こうした第4次産業革命の背後にある技術革新は「顧客の変化と競争環境の変化を生じさせる」といいます。この変化は主として3つあり、①いつでも、どこでも直感的にサービスを体験できることによる「顧客の行動変化」、②テクノロジーを活用できる層が一般化することによる「個人間の意思疎通の容易さ」、③データの取得や利用、加工が安価になることによる「新規参入コストの低下」です。

  1. 企業としての取り組み

上記3つ目で指摘された競争環境の変化に対応するべく、マネックスグループは「生き残るためには非連続的なイノベーションを作り出す必要がある」との考えに立ち、外部リソースを活用したオープン・イノベーションに積極的に取り組んでいるとのこと。具体的には、マネックス・ベンチャーズを設立し、スピーディーな投資を可能にするとともに、日本の金融関連ベンチャーを代表するメンバーにアドバイザーになってもらうことを通じて情報発信力を高めているといいます。また、低リスクかつ柔軟な投資決定を行うために、VC投資よりもアクティブなCVC投資を採用しています。FinTechによる新たなビジネスモデルがいまだ確立されておらず、ディスラプションサイクルの初期にあたる現状では、R&D機能と情報収集を戦略的な主眼においているとのことです。

高岡氏は、こうした取り組みを通じて①FinTech企業とのディールフロー、②新規参入者やトレンドに関する情報収集、③提携先開拓による事業開発、③投資の成功という「良い循環が形成されつつある」と、マネックスグループの投資戦略の成果を総括しました。

  1. 今後の展望

 高岡氏は「垂直統合から水平統合へと移行し、各サービスに金融機関が組み込まれるようになる」との認識に立ち、金融産業の再構築がさらに進むと予想します。従来は証券会社や銀行が各々に顧客との接点を持っていましたが、今後は、顧客との接点やニーズの吸い上げをFinTech企業が代行する一方、既存金融機関がサービスの維持・管理機能を担いつつ、相互に水平的につながりあうというイメージです。こうした金融産業の再構築により、「いままで1対nであった金融機関と顧客の関係性がn対nとなることで、サービスの個別化が実現する」と高岡氏は指摘します。

 高岡氏はまた、FinTechにおける顧客接点およびプロダクト、インフラの各層の事業においてもAIの活用が重要になることを強調されました。

 シリコンバレーへの投資に関して企業文化の違いにより苦労なさった経験や、エコシステムの希薄さゆえに日本でイノベーションを創造することの難しさなど、さまざまな話題をまじえながら、最後に高岡氏は「失敗の許容こそイノベーションの源泉である」という点を強調なさいました。FinTech後進国と言われる日本において、イノベーションとそれを生み出す環境の重要性を再認識させられる講義となりました。

 

「FinTechに対する金融庁の取り組み」

2017年1月18日のゲストスピーカーは、金融庁総務企画局政策課・課長補佐の久米均氏に登壇いただきました。

  1. FinTechをどのようにとらえるか

FinTechが金融業や市場に変革をもたらしつつある中、金融庁としては「金融サービスのイノベーションを通じて、国民にとってより良いサービスの提供が図られるかどうかが重要である」と久米氏は強調します。 しかしながら、FinTechの流れに対応した環境整備や、既存金融機関における戦略的な対応には課題があることも事実です。例えば、FinTechを活用した金融サービスには、複数の法をまたぐなど、既存の規制体系では括ることができないものも出てきています。

  1. どのように取り組んでいるのか

金融庁は現在、FinTechによる環境変化に対し、関連する法律の整備にとどまらず、FinTech新規参入企業に対するサポートなどにも取り組んでいるとのこと。 久米氏はFinTechに関する相談を受け付ける「FinTechサポートデスク」の立ち上げに携わられました。2015年12月にサポートデスクを立ち上げて以降7か月間で相談件数は91件にのぼり、内8割弱は法令解釈に関する相談だったといいます。相談内容をサービス別にみると、金融機関と顧客との間に立ったサービス提供に関するものが最も多かったそうです。また、既に相談が終了した46の案件の内4割において現行の金融規制への対応が不要と回答しているほか、相談終了案件は平均して4営業日前後で対応しているようです。こうした話からも、多くのFinTech企業がビジネスプランを具体的な形にまで詰めた上でサポートデスクに相談を持ちかけていることがうかがえました。

  1. 今後の展望

FinTechが世界的な規模で加速する中、利用者保護を確保しつつ、金融機関とFinTech企業とのオープン・イノベーションを進めて行く必要性が高まっています。その中で、日本におけるFinTechの今後の金融庁の取組み例として、久米氏は、銀行等と利用者の間に立ってサービスを提供する中間的な業者についての制度整備に関する議論を紹介されました。 このような環境整備に加え、FinTechによる変革の動きについて、「サポートデスクによって一つ一つの案件に丁寧に対応していくことも大事だ」と久米氏は強調します。行政の意思決定には時間がかかると言われますが、次なる意思決定に向けて、情報収集などを通じて着実に準備を進めていく行政官としてのあるべき姿勢を目の当たりにした講演でした。

 

「新産業革命」

2017年1月25日のゲストスピーカーは、サンフランシスコを拠点にスタートアップ企業に対する投資を行うScrum Ventures社の創業者兼ジェネラルパートナーの宮田拓弥氏に登壇いただきました。

米国において宮田氏は、多岐にわたる産業で現在進行形の「産業革命」に関わっておられます。宮田氏が率いるScrum Ventures社は、サンフランシスコを拠点に、FinTechをはじめ、Mobility、IoT、VR、EC、ヘルスケアなど、50社を超えるスタートアップ企業に投資を行っています。

テクノロジーによって起きている米国の産業革命

講演の冒頭では、自動車や家屋、店舗が既にテクノロジーによってデバイス化している現状が、動画を用いて紹介されました。Tesla社の自動運転車やAmazon Echo、Amazon Goなどは、それぞれ自動車、家屋、店舗がデバイス化されたものです。 AIおよびブロックチェーン、ロボット、VR/AR技術、宇宙開発、データといった様々なテクノロジーが組み合わさることで、「すべての産業がテクノロジーで再定義されるオールテックの時代がくる」と宮田氏は主張します。FinTechもこのオールテック化への流れの一部であるといいます。 宮田氏はまた、「かつてはモノを『所有』する時代だったが、いまはモノをツールとして『利用』する時代であり、これからはモノが無人で『自動化』していく時代となる」との予想を示しました。タクシーおよび自家用車の配車によって移動サービスを提供するUBER社の時価総額が大手自動車メーカーの時価総額を超えていることにも示されるように、現代社会は既に、モノを「所有」する時代から「利用」する時代へと移り変わりつつあるといいます。

変化の時代をどう乗り切るのか

宮田氏は、オールテックの時代を乗り切るために必要な3つの処方箋を、米国の事例をもとに紹介しました。

一つ目は、変わりゆく事業の本質を理解することです。米国では眼鏡を店頭で購入するのではなく、店頭では着用だけして購入はネットで行うWARBY PARKERという企業が登場しています。宮田氏は、こうした新たな取り組みを例にあげ、小売業の事業そのものが変化していることを指摘しました。「テクノロジーによってデータ化が進めば、顧客にとってより本質的な買い物が可能になるのではないか」とも述べられました。

二つ目に宮田氏があげたのが、テクノロジーカンパニーへの変革です。宮田氏は「銀行も小売りもすべてテクノロジーカンパニーになるだろう」と予想します。米国の老舗百貨店がオンライン化で売上比率を26%上昇させたことや、Walmartがテクノロジー企業を買収したこと、AmazonがEC事業から生活全般事業に領域を広げていることなどを例に挙げ、「これからはテクノロジーを経営の中核に据える会社だけが生き残れる時代となるだろう」と宮田氏は主張します。

三つ目はオープンイノベーションの実践です。イノベーションのジレンマに陥っていた任天堂は、米国のTech企業であるナイアンティックとともにPokemon Goという画期的なゲームを生み出すことに成功しました。「従来のR&Dは閉鎖的であったが、オープンイノベーションによって変化の速い時代に対応できる」と、宮田氏はオープンイノベーションの重要性を強調します。

宮田氏は「テクノロジーの発展とその新たな組み合わせにより、各産業は今後も大きな変革を遂げることになる。FinTechはこうした一連の変革の一部である」との認識を示されました。そうした認識に立っているからこそ、Scrum Ventures社は、FinTech分野のみならず、他分野にわたる企業に投資を行っているといいます。今後いかに世界が変革していくのか、深く考えさせられる講演でした。

 

「自動運転を見据えたMobility Serviceと金融サービス」

2017年2月1日のゲストスピーカーは、トヨタファイナンシャルサービス戦略企画グループ、シニアバイスプレジデントの冨本祐輔氏に登壇いただきました。

  1. モビリティサービスによる市場の変化

講演の冒頭、冨本氏は「Uberの登場によって、新たなプラットフォームとエコシステムが生み出された」として、事例を紹介しました。サンフランシスコではタクシー業界の売り上げが6000万ドル減少したのに対し、ライドシェア業界の売り上げは11億ドルに上り、Uberの登場によって新しいエコシステムと新市場が創造されたことがうかがえます。冨本氏は「需要側と供給側のマッチングがリアルタイムに行うことができ、コストが激減したことにより、ライドシェアは勿論のこと人や食べ物という従来型以外の分野において、モノやサービスのデリバリーが行われるようになった」と指摘します。FordやGMは、モビリティサービスと金融サービスを融合させた事業を通じ、車の新しい買い方を展開しているといいます。このように、Uberによって新たに創出されたエコシステム・ビジネスの中には、Uber driverを支援するものや、事業の対象を広くしたもの、テクノロジーと結びついたものなどがあります。

 一方、自動運転の導入によっても、新たなエコシステムが創造される可能性があります。冨本氏は「可処分時間の消費を促すかつてない乗車体験」というユーザーニーズや、「IoT連携や自動決済」などの分野において、ビジネスの裾野が大きく広がるとの展望を示しました。

  1. モビリティサービスにおけるトヨタの取り組み

モビリティサービスの変化により、カーシェアやライドシェアという新たなサービスや、それに付随するサービスが次々と誕生しています。これらサービスの形態はBtoB、BtoC、CtoCとさまざまですが、現在最も成長しているのがCtoCの分野であり、トヨタもこの流れに乗ろうとしているといいます。将来的には、ライドシェアとカーシェアを1台の車で行うとともに、アプリを利用してサービスを提供するようなことも想定されます。これは、自動車の稼働率を引き上げることができるビジネスであると冨本氏は指摘します。

  1. 自動運転時代における保険の在り方

自動運転時代における最大の課題は、「責任の所在が多様化こと」であると冨本氏は強調します。例えば、事故発生時の責任の所在がシステムに移ることで、運転システムのソフトウェア開発者や同システムに危害を加えたハッカーに対して損害賠償を求めることになります。日本の保険会社もこうした流れに対応した損保の仕組みを作る必要に迫られています。 冨本氏は、新たな保険ビジネスの可能性を三点示しました。一点目は車両から取得できるデータをもとに、手動と自動運転を判別したり、事故原因に活用する仕組みが必要になるとのこと。これはまさにデータ分析やテレマティクス、ファイナンス技術の組み合わせであると言えます。二点目は、自動運転固有のリスクに対する新たな保険商品の開発です。自動運転において最大のリスクとなり得るのは運転システムに対するサイバーリスクであり、このような自動運転固有のリスク対応が必要となると冨本氏は予想します。三点目はメーカーの自家保証です。自動運転によって現在よりも事故が減少することが予想されるため、メーカーが自家保証を行うことで、利用者の負担をさらに減らせる可能性があります。 冨本氏は最後に、「東京に住んでいては車の必要性は感じにくいように、自分のものさしでは計れない時に単に否定してはいけない。イノベーションは、異業種・価値観の違う人との摩擦から産まれる」と述べられました。自社の事業とは関係ないと思って見過ごすのでなく、新たに創出されるエコシステムの波に乗れるよう、常にアンテナを張り巡らせることの重要性に気づかされる講演となりました