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KPMG FAS寄附講義 公開セミナー「M&Aによる持続的成長」

2015年10月7日一橋講堂において、「M&Aによる持続的成長」と題した公開セミナーが開催されました。本セミナーは、株式会社KPMG FASからの寄附で一橋大学における金融戦略・経営財務コース(MBAプログラム)に設置した寄附講義「M&Aと事業再生の実践」の一環として開催され、およそ300名の方が参加されました。

 

第一線の実務家、教授陣による多角的なM&A論議が実現

プログラムは二部構成で、前半の佐山展生教授による基調講演に続き、後半は第一線で活躍している実務家と本学教員によるパネルディスカッションが行われました。

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基調講演、パネルディスカッションともに、企業の持続的成長を実現するM&Aの条件が複眼的な視点から論じられ、セミナーの終盤には参加者の方から多数の質問がありました。都心の千代田キャンパスにてMBAプログラムを提供している本コースでは、最前線で活躍する実務家をゲストスピーカーに招く授業も多く提供しています。そうした基盤の上に実現した今回の公開セミナーは、参加いただいた方々にとって本コースならではの「学びの場」を体験していただく機会となりました。

M&Aが創出する日本企業の価値——−佐山展生教授の基調講演

佐山展生教授が、「M&Aによる企業価値向上」と題する基調講演を行いました。佐山教授は、大学卒業後は11年間帝人に勤務後、33歳でM&Aの世界へ転身。以降、日本初の破産手続きの中でのM&A等に携わり、日本におけるM&Aの草分け的な存在となりました。さらに、日本で初めての大型バイアウトファンドを創設、最近ではスカイマーク再建にも取り組んでいます。

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基調講演の前半では、佐山教授がこれまで携わったM&Aで活用して来た企業価値評価についてご紹介し、さらに、最近のM&Aの特徴や、M&Aを実施する際の留意事項などについて説明しました。後半では、「日本企業にとって理想的なM&Aとは」というテーマで講演しました。一般に、M&Aでは、買収企業が対象企業の既存の価値を吸収するものだという意見があります。一方、佐山教授は、M&Aの価値創造の本質は、会社に新しい経営資源を確保することで、従業員が活躍できる会社=良い会社に変えていくことだと主張しました。その時、買収企業だけがM&Aの価値を享受するのではなく、従業員を含むステークホールダーがそれぞれの立場に応じた価値を得るのが望ましく、また、そこで働く従業員の幸せこそがM&Aによる企業価値向上の原点であり、このようなM&Aこそが日本企業にふさわしいM&Aであると主張しました。

 

日本企業のM&Aによる持続的成長を探った150分

基調講演に続くパネルディスカッションでは、助野健児氏(富士フイルムホールディングス株式会社 取締役執行役員)、岡田光氏(株式会社KPMG FAS取締役パートナー)、佐山展生教授、野間幹晴准教授がパネラーとして登壇し、知野雅彦氏(株式会社KPMG FAS代表取締役パートナー)がモデレーターを務めて、「M&Aによる持続的成長」をテーマに討論を行いました。
最初に、富士フイルムホールディングスの助野氏から、同社が既存技術を新市場に適応させるために用いたM&A、ならびに外部から新規技術を調達して新市場を開拓するために用いたM&Aについて紹介いただきました。同社では、2000年度を境に主要事業であったカラーフィルムの世界総需要が急速に下落し、既存事業だけでは持続的成長が達成できない状況に直面していました。事態を打開するために、全社をあげて既存技術の棚卸を行い、アンゾフの成長マトリックス―すなわち既存市場と新市場、既存技術と新技術の4象限に分類して適応事業を見極め、自社の経営資源と競争力を確認した上で重要事業分野を絞り込みました。

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特に既存市場に参入する際には積極的にM&Aを行い、他社からの経営資源の獲得に腐心しました。戦略的に実施したM&Aの分野は、ドキュメント、グラフィック、医薬品、メディカルシステム、再生医療と多岐にわたりました。助野氏から、M&Aの案件発掘から取引実行、そしてM&A後のポストマージャ―インテグレーション(PMI)などM&Aのプロセスを管理する社内体制の構築と整備の重要性について説明いただきました。
その後、富士フイルムのM&A経験について、モデレーターの知野氏からさまざまな論点提供され、各論点についてパネラーが意見を述べました。特に海外企業とM&A取引を実行する際の留意点、米国型企業との比較から浮かび上がる日本型企業の持続的成長モデルやROE重視経営の在り方、そしてクロスボーダーM&Aを成功させる人材育成のあり方、などが議論の焦点となりました。
助野氏の日本型企業と米国型企業との比較に関する議論は、示唆に富んでいました。米国では、株主価値が最も重視され、例えばコダック社のようにコア技術が競争力を失った企業の場合、新たな成長機会を求めて事業戦略を転換する道を選ぶ代わりに、ここに投下した資本を引き上げ、新規技術をコアとして事業を始める企業に資本を転用し、社会全体で資本を効率的に運用するという道を選択します。一方、佐山教授も指摘するように、日本企業は、従業員の雇用維持を重視することから、企業として存続する方法を考え、株主価値向上と整合的な方向で持続的成長を確保する道を模索します。
このように日本と米国では、企業経営やM&A取引にさまざまな違いが存在し、持続的成長に関する認識も異なります。さらに岡田氏は、交渉における買収企業と被買収企業の関係も異なれば、M&A取引に関する法務面での対応なども大きく異なるので、M&Aには多様な知識と経験が求められると主張されました。また野間准教授は、昨今の日本では、伊藤レポートで主張されたROE8%を確保することが重要視されている点を指摘しました。このため、企業は株主投資家への還元を着実に行うとともに、従業員にも配慮した企業戦略を考えつつ、持続的にROEを高めることが求められています。
こうした状況下、日本企業にとっての喫緊の課題はM&Aを含むグローバル経営に精通した人材育成を行うことです。次世代の幹部候補を育成するためには、子会社等で経営者として経験を積む方法が効果的です。富士フイルムは、外国でのコミュニケーション能力とマネジメント力を同時に身につける方策として、小規模な海外拠点の長に若手社員を任命するといった育成プログラムを組んでいます。
終盤には、M&A取引に際して社内体制を構築する具体的方法論、ベンチャー企業の買収などについて、フロアーの参加者と活発な質疑応答が行われました。
全体を通して、持続的成長を実現するM&Aについて多面的な議論が展開され、有意義なセミナーとなりました。

 

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