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専門科目「金融データ分析」のご紹介

前回の横内准教授によるエッセイをご覧になった方はお気づきかもしれませんが、彼の担当している科目「金融データ分析の基礎」と私の担当科目は非常に名前が似ています。では、何か違うのか。私なりに例えてみますと、彼の科目はアクセルとブレーキの位置やハンドルの役割など、教習所内で運転するために必要な知識をマスターするための科目です。利用可能なデータが手元にあって、関心のある被説明変数(例:企業価値)と幾つかの...
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前回までのリレーエッセイに引き続き「担当科目」というテーマで、私の担当しているICS金融戦略・経営財務コースの「金融データ分析」について、少しお話させて頂こうと思います。

前回の横内准教授によるエッセイをご覧になった方はお気づきかもしれませんが、彼の担当している科目「金融データ分析の基礎」と私の担当科目は非常に名前が似ています。では、何か違うのか。私なりに例えてみますと、彼の科目はアクセルとブレーキの位置やハンドルの役割など、教習所内で運転するために必要な知識をマスターするための科目です。利用可能なデータが手元にあって、関心のある被説明変数(例:企業価値)と幾つかの説明変数(例:企業規模、社齢、業種、ガバナンス構造など)との間の関係を分析したいという場合に、どういった道具を使う余地があるのかを学ぶ訳です。勘の良い方は既に想像されているかもしれませんが、この科目から「基礎」が取れた私の担当科目では、公道で路上演習をすることが目的となります。皆さんにもご経験があると思いますが、公道では教習所内ではお目にかかれない複雑な交差点やアクシデントなどに直面します。そうした場合でも事故を引き起こさないようにするためのトレーニング機会を提供することが、私の担当科目の役割であると考えています。

例えば、ガバナンス構造(例:社外取締役の数)が企業価値に与える影響を考えてみたいということで、たくさんの企業について企業価値と社外取締役数のデータを集めてきて、「企業価値=a+b×社外取締役数」という関係を分析したとします。結果として、bの値が正であるという結果が得られた場合、皆さんはどのようにこの結果を解釈するでしょうか。もしかすると「社外取締役を増やすと企業価値が改善する!」と大喜びするかもしれませんが、本当に大丈夫でしょうか。例えば、分析に取り込んだ社外取締役の数が、分析に含まれていない何か別の企業属性(例:企業のサイズ)の効果を誤って示してしまっている可能性は無いでしょうか。また、企業価値の高い優れた企業であるからこそ、多くの社外取締役を揃える誘因を強く持っている可能性は無いでしょうか。他にも、そもそも全ての社外取締役が均等に企業価値へ影響を与えるという想定は本当に尤もらしいでしょうか。これらの懸念は全て結果の解釈に致命的な影響を与えるものです。どうでしょう、自分が間違ったことを言っていたのではないかと不安になりませんか。

学術研究に限らず、データを用いて行う仕事の多くにおいて、分析上の懸念を一つ一つ取り除くことで間違った結論を回避することは大変重要です。では、トラブル回避技術を学べば十分かと言いますと、話はそこで終わりません。再度運転の例に戻ってみると、いくら実践的な技術を身に付けても、普通の乗用車では踏破することがそもそも難しいような道もあります。一例として、企業の設立から倒産までの期間がどういった企業属性と関係しているかを考えたいという場合に、上で触れたような単純な分析手法では十分な分析が出来ないかもしれません。そこで、基本的な分析手法と留意点(+対処法)を学んだあとは、データの特性や分析対象となる問題に適した幾つかの分析手法を順に学んでいくという流れになります。ちょうど目的に照らした特殊免許を取得していくイメージでしょうか。

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※日進月歩の統計手法を正しく習得することはなかなか大変です。

  ここまで、ICSで提供されている科目が実証分析を行うために効果的なトレーニングを提供する狙いを持って設計されていることを書いてきましたが、仕事(免許を取った後の実際の運転!)として良い実証分析を行うために重要なポイントは他にもあります。その中でも私が特に重要と考えているのは、「意味のある」問題を設定することです。運転の結果としてどこに行きたいのかを考えることは、運転技術と同じくらい重要な事柄でしょう。この点に関してICSでは、金融と実物経済に関する実務的な科目のほか、現実問題を数学的なモデルで整理することで分析のゴールを明確にするための理論的な科目も準備されており、自由な発想で正しい分析を行うための基礎がしっかり学べるように科目が設計されています。

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※「仕事中はイヤホンで音楽をかけっぱなしにしているので、訪問者を無視してしまわないようにドアを開けっ放しにしています。」

私が大学院を終えたとき、指導教官であったHugo Hopenhayn先生から「理論的なモデルを理解した上で実証研究を行い、複数の分野を繋ぐような応用研究を意識して仕事をしなさい」と言われました。研究者として仕事をしていく上で、この言葉を常に意識するようにしていますし、このアドバイスを忠実に守ることでたくさんのチャンスを得ることが出来ました(研究分野が多岐に亘るため、時々自分が何の研究者なのか分からなくなることもありますが)。こうした経験からも、現実的に意味のある問題を自由な発想で探索し、理論的な整理を踏まえた仮説の設定を行い、データを収集し、正しい実証分析を行い、その結果を正しく解釈が出来る人材へのニーズはこれからますます高まっていくと確信しています。意欲ある方と一緒にICSで学べることを期待しています。