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基礎科目「コンピュテーショナル・ファイナンス」のご紹介

「もしもし、三浦です。今度、一橋大学が社会人向けの専門大学院を作ることになりました。ついては、デリバティブを全面に押し出した専門科目(派生証券I、II、III)をたてましょう。」という電話をもらい、2000年から開講した「コンピュテーショナル・ファイナンス」は、「派生証券III」という専門科目で始まりました。
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♠「もしもし、三浦です。今度、一橋大学が社会人向けの専門大学院を作ることになりました。ついては、デリバティブを全面に押し出した専門科目(派生証券I、II、III)をたてましょう。」という電話をもらい、2000年から開講した「コンピュテーショナル・ファイナンス」は、「派生証券III」という専門科目で始まりました。 途中で、専門科目から基礎科目となり、専門性の強い部分は削除し、世の中のゆとり教育(?)に合わせて基礎的な部分の比重を高めていきました。そのせいか、今でも、オプションを題材にしたトピックで、Black-Scholes公式や、2項ツリーによるアメリカン・オプションの評価、Monte-Carloシミュレーションによるオプションの評価などが残っています。

 プログラミング・スキルのない人でも、簡単にプログラムが書ける簡易言語の一つであるMATLABを講義では使っています。最初のうちは、簡易言語を通じて、プログラムの一般的な書き方を習得してもらうために、比較的簡単で短めのプログラムをファイナンスの題材から選んで、繰り返し書くような「筋トレ」実習を行います。

 宿題もプログラミング系のものが多いですが、MATLABのサンプルコードを履修者に配布し、それを参考に、自分の使いたいコンピュータ言語でプログラムを書き、それを使った分析を行いレポートを提出するというようなスタイルをとっています。使用言語は何でもOKです。重要なことは、計算のアルゴリズムやモデルの理解と実装がきちんとできているかどうかであって、コンピュータ言語が何かということはどうでもよいことだからです。

 それから、逆説的ですが、コンピュータを使わない部分がとても重要であると考えています。プログラムを書く式の元になっている理論の背景や、式の意味するところの深い理解がないと、無駄なコードを沢山書いてしまうことになります。

♠ところで、コンピュテーショナル・ファイナンスの目指す目標は

 速い! 安い!! うまい!!!

を具現化することです。計算スピードが速く、計算コストが安く、多大な恩恵を享受できる計算アルゴリズムを開発できれば最高です。

 講義では、そのようなレベルに至る準備として、ファイナンスの計量的部分、数値計算に係る基礎を中心に学んでいきます。ICSの他の専門科目でコンピュータを使ったプログラミングが必要な科目群を下支えするような役割を担っています。

♠最後に、牛丼屋のキャッチフレーズが実感できる例を紹介しましょう。講義で題材として取り上げている平均回帰性のある時系列モデルに関連したトピックです。詳細は秋学期の専門科目「投資戦略論」で解説しますが、長期均衡関係(共和分関係)に回帰する資産への最適投資問題を解いています。

 基礎となる部分は、この講義で取り上げる行列演算、常微分方程式の数値解法、確率微分方程式の基礎知識と、ICSの統計、計量経済系の講義でカバーされる統計的検定手法(特に共和分検定),ファイナンス理論で取り上げられる動的最適性原理などです。

 2つの共和分銘柄の投資は、ペア・トレーディングという名前で実務ではお馴染みのものです。ノーベル経済学賞を受賞したEngleとGrangerの共和分の理論を応用します。共和分とは、株価のように必ずしも定常とはいえない時系列でも、ある特定の比率(共和分ベクトル)で組み合わせると、定常的になる場合があり、このとき、これら複数の時系列には共和分関係があると言います。

 2銘柄のペア・トレーディングと異なり、3つ以上の場合には、共和分関係が複数存在することがあります。投資比率に使う共和分ベクトルが複数あることになるため、どれを使えばよいかという問題が生じます。

 複数の共和分関係を使った3銘柄の共和分投資は、「税と社会保障の三位一体改革」というフレーズからヒントを得て、投資家の財産形成と生涯保証を行う「財と生涯保障の三位一体投資戦略」と名付けることにしました。4銘柄だと、4位一体投資…の要領です。

 実務家の間でリスクオン・オフの指標として参照されるVIX(S&P500 optionのmodel-free implied volatility)ですが、一方で投資家の心理を表す「恐怖指数」とも呼ばれています。日本市場では日経VI、ユーロ市場ではVDAX等の同様の指数が存在します。
実はこれらには強い共和分関係があります。

 地球の自転に合わせて、日経VI->VDAX->VIX->…のような順序で概ね連動しています。図は、これらの指数が(先物等の利用で)取引可能だとして、共和分投資を行った「世界一周恐怖の旅」の結果です。
図(左上)は3つの指数の推移、
図(右上)は3つのVIに内包される2つの共和分関係(共和分ベクトルで加重した3指数の対数のスプレッド過程)、
図(左下)はこれらへの最適投資量,
図(右下)はファンド価値の累積の推移をそれぞれ表しています。
指数や、2つの共和分関係の変動に応じて、最適な投資量を動的に求めて、それらに基づいて投資した結果を表しています。例えば、日経VIが最大となった2008年10月31日には、図(右上)から2つ共和分関係はどちらも正の方向に乖離しており、図(左下)から、大体、日経VIを300単位程度ショート、VDAXを1000単位程度ショート、VIXを1300単位程度ロングするポジションが最適であると読み取れます。

VI3EC2_VI
VI3EC2_pi VI3EC2_Wt

続きは、次回のリレーエッセイで紹介します。

潜在的な志願者の皆さん、いかがでしょうか。多少なりとも、興味を持たれた方は、是非、出願してICSの学生になられることを期待しています。